「女性」の視点で映画をみることは、たとえ生物学的に女性じゃなくても日常では出会わない感情が起動して、肌ツヤも心の健康状態もよくなるというもの! そんな視点からオススメ映画を紹介する【うるおい女子の映画鑑賞】。
第30回は大竹しのぶ、豊川悦司、その他豪華キャストが集結して、黒川博行の原作小説『後妻業』を映画化した『後妻業の女』(日本・2016年)です。
|『後妻業の女』
欲まる出し、熟女特有の肉感ボディ、老い先短い老人相手に色目をつかい、資産を根こそぎもっていく小夜子(大竹しのぶ)は下品な女。骨の髄まで、下品な女です。彼女は、金持ち老人の後妻に入り、つぎつぎと資産を巻き上げていくことを生業にしている”後妻業の女”です。
結婚相談所主催の婚活パーティでの自己紹介はきまって、恥ずかしそうに伏し目がちに「好きなことは読書と夜空を見上げること・・・・・・わたし、尽くすタイプやと思います」というかまととぶり。そんな芝居に騙された老人たちは彼女の虜となり、やがて看取られていくのですが、9番目(!)の夫の娘が、小夜子の不振な行動に勘付き、興信所に身辺を調査させることから、百戦錬磨の小夜子の数々のきな臭い過去が明るみにされていきます。
「小夜子の最大の強みは罪悪感の無さ」と評する結婚相談所所長の柏木(豊川悦司)は、小夜子の後妻業を影からサポートする、これまた金と女が大好きな下品な男です。
物語は、小夜子と柏木、9番目の夫の娘・明美(尾野真千子)、明美の姉の尚子(長谷川京子)、その身辺をかぎ回る探偵・本多(永瀬正敏)を中心に、下品すぎる2人の悪行をコミカルに描いていきます。人間くさいキャラクターたちを、癖のある豪華キャストが濃厚に演じていて、なんだか見てはいけない人間の本質を覗き見てしまった気分にさせられる圧巻の秀作です。
|“下品な女”ほど魅力的?!
小夜子の欲深さ、執念、大胆さ、柏木のクズさとズル賢さ。その生臭さを「これでもか!」と見せられるわけですが、それがもう見事。とくに小夜子のあけすけで悪ぶれない品行は、誰もがSNSで“自分プロデュース”をしている昨今では到底お目にかかれないような代物です。
道徳的にみれば、何ひとつ肯定されるべきところのない小夜子なのですが、激しくエネルギーに溢れていて全力で生きている姿はあっぱれ。「こんな下品な女嫌だわー」と拒絶反応もあるのですが、顔を覆った指の隙間からしっかりと観察してしまうような、ある意味魅力的な女でもあるのです。
「モテ仕草」「愛され女子」といったマニュアルや、「正しい人間」といった親や社会に刷り込まれた道徳観念。わたしたちは、気づけばそれらに縛られていたりします。そんなわたしたちを軽やかに笑い飛ばすように、豪快に、自由に、アグレッシブに生きる小夜子には、人を惹きつけるものがあります。9番目の夫の長女尚子が、映画の終盤でぽつっと発する一言に、自分に無いものを持つ女に否が応でも惹かれてしまう女のサガが現れています。まあ、惹かれていることは大抵、公には認めないのですがね(逆に悪口を言っていることが多い)。
下品だけど憎めなくて、どこか可愛らしい小夜子を見て、自分にどんな感情が湧くのか。そんな視点からも楽しめる1本です。2017年3月にはBlu-ray&DVDにて発売が予定されていますので、まだ見ていない方はぜひチェックしてみてください。
text:kanacasper(カナキャスパ)
↧