身体と同様に、こころもエクササイズが必要。週に1本映画を観ることで、こころの筋肉をしっかりと動かし、”きれい”を活性化しませんか? そんな”きれいになれる”映画を毎週紹介する【うるおい女子の映画鑑賞】。
第22回のテーマは「ダメ男の脳内」をテーマに、『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』(英=米・2013年)をご紹介します。
『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』 DVD発売中 3,800円(税別) 発売/販売:アルバトロス ©2013 LOCKE DISTRIBUTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED ※2016年3月19日現在
|最注目!実力派英国俳優トム・ハーディ
先日のアカデミー賞で悲願の主演男優賞を受賞したレオナルド・ディカプリオ。世界中が固唾を呑んで見守った受賞スピーチで、真っ先に賛辞を贈られたのが受賞作品『レヴェナント:蘇えりし者』での共演者のトム・ハーディでしたね。
自身も助演男優賞にノミネートされてはいたものの、惜しくも受賞を逃したトム・ハーディですが、今回のアカデミー賞で最多の6冠に輝いた『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でも強烈なインパクトをのこしていますし、次期007ジェームズ・ボンドの呼び声も高い最注目英国俳優のひとりです。
偶然にも主演作の日本公開が続いているトム・ハーディ。どの作品も秀逸ですが、彼の芝居のうまさが炸裂しまくっているのが『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』で、ブラッド・ピットも「完璧すぎる演技!」と賞賛しているほど。
|画面に映るのはトム・ハーディのみ!
本編86分をとおして画面に映るのは、なんと車内のトム・ハーディただひとり! リアルタイムで進行していく本編は、トム演じるアイヴァン・ロックと彼が車内からかける電話越しの会話(+独り言)のみという驚きの構成なのです。
|いったいこの男は誰?で、どうしたの?
わたしたち観客は突然、前情報も何もなくこの男の車に86分同乗することになるのですが、車内で交わされる会話の内容から、次第に男の実態と彼が置かれている状況が浮き彫りになっていきます。
|1本の電話、人生を変える方向転換
アイヴァンは高級車BMWに乗っていることから、わりと裕福な男のようです。会話から、経験があり評価も高い建築現場監督ということがわかります。そんな彼にはふたりの息子がいて今夜は家でサッカー観戦をする約束をしていて、なおかつ明日は大規模な建設プロジェクトの着工を控えているらしいのだけど、ある1本の電話を受けると、自宅とは逆方向のハイウェイへと乗り込んでいきます。その様子は尋常じゃない・・・・・・。
|リアルタイムで進行するダメ男の脳内!
※以下ネタバレ含みます
はっきりいきなり言いますが、この男がダメ男すぎて笑える! だけど彼の口から出るセリフはぜんぶかっこいいという妙。今夜息子たちが楽しみにしていた約束をすっぽかし、電話越しのある告白で妻を泣かせ、さらには明日の超重要なプロジェクトの着工をすっぽかしてどう考えても力不足の部下に丸投げしてまで向かう先・・・・・・それは、たった一度関係を持って、今日自分の子供を出産する女性がいる病院なのです。どうです、クズでしょう? 電話口で「不倫+隠し子出産ナウ」の告白とか、言えなくて、でも言わなきゃと思いながら後回しにし続けて、一番最悪なタイミングで妻を最も残酷に傷つけるという・・・・・・。
たまに、わたしたち女子を驚かせるような発言&行動をとる男性の脳内ってこうなんだ!と、超納得の86分です。
|ダメ男の正義とカタルシス!
まあクズなんですけど、このクズ観察が面白いのです。こういう思考回路で、こういう大義名分があって、この行動に至っているというのを、「国家を救うぞ!」という『アルマゲドン』的テンションな彼と同じ車内にして間近に見させてもらえるのです。
どうやら彼の父親が家庭を放り出したダメ男だったようで、「俺は父親とは違う。あんな人間じゃない。責任を全うするんだ!」というトラウマと闘っている様子。無責任な行動をとっておいて、突然どこかから検討違いな大義名分をふりかざす男性、いますよね・・・?まさにそれなんです!
|86分のドラマを演じきるトム・ハーディのすごさ!
人生の大きな決断をした男の泣き笑い劇場が狭い車内で繰り広げられるわけですが、まったく飽きさせないところがすごいのです! 大きなプロジェクトの現場監督をめちゃぶりされた部下が酒にはしったり、「愛してると言って?」と出産前に不安でいっぱいの不倫相手に「愛していない」「君を知らないから」と頑なな態度をとったり、父親の亡霊にひとり罵声をあびせたり・・・・・・とにかく彼の巧妙な芝居の才能が炸裂しているのです。
ダメ男の脳内観察をして今後の恋愛に生かすもよし、最旬の英国男子に萌えるもよし、映画界からの熱い視線を集める俳優のすごすぎる芝居にしびれるもよし、今週末「おうちシネマ」にいかがですか?
text:kanacasper(カナキャスパ)(映画・カルチャー・美容ライター/編集者)
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