「女性」の視点で映画をみることは、たとえ生物学的に女性じゃなくても日常では出会わない感情が起動して、肌ツヤも心の健康状態もよくなるというもの! そんな視点からオススメ映画を紹介する【うるおい女子の映画鑑賞】。
第29回は『マイ・インターン』(アメリカ・2015年)。『プラダを着た悪魔』のアン・ハサウェイが、ニューヨークで30歳にしてファッションサイトを立ち上げた超勝ち組の女社長を演じています。『プラダ~』で鬼上司にこき使われていた主人公の“その後”のような設定に食指が動いた方も多いのでは?
|『マイ・インターン』
自分のために”主夫”となってくれた優しい夫と愛娘に恵まれ、ニューヨークで夢のように素敵な家に住んでいる主人公ジュールズ(アン・ハサウェイ)。オンラインショップというめまぐるしい世界で成功を収める彼女だけに、目の回るようなスピードと忙しさで、猪突猛進に日々を過ごしていますが、彼女の周りには「努力を評価してもらえない」と嘆く部下たち、そして“男としてのプライド”と葛藤しながら寂しさを抱える夫など、ちらほら見落としている不安要素がありました。
【オフィス内の移動は自転車で時間節約】 そんな折、健全な企業として、あくまで会社の”体裁”として雇ったシニア・インターン、ベン(ロバート・デ・ニーロ)が彼女のアシスタントをつとめることに。自分より40歳も年上で、パソコン作業もゼロから習得中のベンに当初こそ苛立つジュールズでしたが、上司として自分をリスペクトしながらも、並外れた経験値から発せられる助言はシンプルかつ的確で、次第に彼を頼るようになります。
働く女性の理想として何もかも手に入れたかのようなジュールズの人生ですが、あらゆる側面で危機的な状況を迎えます。何かを得るには、何かを捨てる?そんな彼女にベンは円熟した器の大きさで手を差し伸べ、ジュールズは”忘れてはいけないもの”を取り戻していきます。 |本能に勝る“正義”ってあるの? 子育てしながら働く女性であれば涙を流して共感できる部分があるだろうし、シングル世代でもこれから待ち受けているであろう現実として学ぶことが多い本作。もちろん、ジュールズのファッションやNYの美しい街並みを見ているだけでも気分が上がるし、観ると元気をくれる映画でもあります。 だけどこの映画の本質は「ガールズパワー」についてだと思います。
すべてを手にしたキャリアウーマンのジュールズの人生が、ガクっと危うく傾いてしまったとき、彼女は持ち前の優秀な頭脳を使って考えます。 「何がいけなかったのか?」「どうすれば会社のため?」「何が家庭を維持するのに大切?」「わたしが間違っていた?」 彼女の脳内コンピューターはビュンビュン稼動して、いろんな選択肢をはじき出す。そこへ「で、なんでこの会社を始めたの?」と極めてピュアで原始的で、曇りのない自問に、ベンが立ち返らせてくれるのです。 仕事をはじめたときって、程度の差こそあれ、なにかしらピュアな原動力をもっていたはず。だけど、きれいごとだけでは進めない現実もあって、挫折があって、身を守るために武装をして、利益や出世という即物的な目標を追いかけ始めたり・・・。それらはかならずしも否定されるべきものではないし、働く人間なら誰しもが通る道です。 だけど、必ずどこかでひずみが生じる生き方でもあって、行き詰ることも多々あります。大切なのは、行き詰ったときに自分の原点である“正義”に立ち返れるかどうか。
「ガールズパワー」とは「ワープのように自分の原点にひとっ飛びできることなのでは?」と思います。社会に出ると、厚着に厚着を重ねて、趣味じゃないアクセサリーをつけて、重たいブランドバッグをもって、いつのまにか自分の原点を忘れてしまいがち。そして原点には、実は本能の存在もあるはずです。 頭でいくら考えても解決しなくて行き詰ったとき、身に着けている余計なものを取っ払って、びゅんっと立ち戻り、自らの原点を思い出した女性は強いもの。ジュールズはまさに、その強さをベンに教えられるのです。そして自らの原点を取り戻したジュールズが下した決断は、彼女の人生を新たなステージへと導いてくれます。 最後にもうひとつ、この映画の魅力はやっぱりデ・ニーロ! 社会の第一線で酸いも甘いも経験してきたデ・ニーロ演じるベンが、偉ぶることも、ちっぽけなプライドを持つことも、説教じみた態度をとることもなく、”インターン”として若者だらけの職場で潤滑油のような役割を果たしていく男の流儀はもはや哲学的。「こんなじいちゃん(ばあちゃん)になりたい!」という憧れの気持ちを抱くほどに、デ・ニーロが魅力たっぷりに演じるベンの人間力にも感服するはずです。 ぜひこの週末、忘れていたものを思い起こすためにも、本作を楽しんでみてはいかがでしょうか? text:kanacasper(カナキャスパ) top image出典:instagram